完璧な空、雲、緑。
2001年のデビュー以来、世界何億人という人々に愛されたWindows XPデスクトップの壁紙「Bliss(草原)」はいかにして生まれたのか? XPサポート終了に寄せて、元ナショナルジオグラフィック専属フォトグラファーのCharles O'Rearさんが、サンフランシスコ北セントヘレナの自宅でインタビューに応えた。
おお、いらっしゃい、よくきたね。ここが「草原」の国だよ。僕はチャック(チャールズ)・オリア。ここはナパ。あれ撮った場所はこのすぐそばにある。
サンフランシスコ北のこのあたりでは冬、雨中と雨上がりに草原が緑に輝く時季があるんだ。なのでシャッターチャンスを逃さぬよう、いつも準備は怠らずにいた。
金曜午後は毎週サンフランシスコ付近に住むガールフレンドのところに行くんだが、ちょうどあの日は1月で、丘のアップダウンの田舎道を走ってたら、もんのすごい草原が目の前に広がったんだ。
草はもう完ぺき。美しい緑。お日様も出てるし、雲もある。
でもまさかそのまま写真に撮れるとは思ってなかったよ。どうせ車を停めてカメラ構えた頃には雲も流れてしまってるだろう…ってね。それぐらい、すべてが目まぐるしいスピードで変わっていた。
でもいざカメラの支度が整ったら…雲が戻ってきたのさ。1枚撮って、巻いて、もう1枚。今はデジタルだから巻かなくていいけど、当時はフィルムだったからね。また雲がきたので、もう1枚…合計4枚撮って「これで良し」って三脚畳んで元の運転に戻ったんよ。
機材は別に特別なものは使ってない。鮮明カラーの富士フイルムとRZ67。マミヤのRZ67はレンズが信じられないほどいい。このフィルムとカメラの組み合わせが何しろ完ぺきだった。これのお陰で「Bliss(草原)」は出色の仕上がりになったようなものさ。35mmのSLRで撮っても同じにはならなかったと思うよ。
僕は、マイクロソフトのエンジニアが写真探してるなんて知らなかった。穏やかで、ストレスのない写真を探してたらしくて、会社の人がエージェント経由で僕の写真見て気に入ってくれたんだけど、最初のは色はそんなに良くなかったんじゃないかな、CRTだし。で、「原本送ってくれ」ってエージェントから連絡がきたんだ。
送り方はFedExとか3通りあったんだけど、マイクロソフトにどの送り方がいいか問合せたら、「航空券送るからハンドキャリーで持ってこい」って言うんだよね。で、持っていって弁護士か誰かに手渡して書類にサインして、はいオシマイ。ちゃんちゃん。
まさかあんなに広まるとは夢にも思っていなかったよ。
ふと気づけばホワイトハウス地下のシチュエーションルームにもあれ、新聞の写真にもあれ、要人対談にもXP。プーチンの後ろの画面もあれなんだもん、まったくビックリするぜ。
たぶん今15歳以上の人はアレを一生覚えてんじゃないかな。
Windows XPが出て2年後、「あの写真の撮影場所を探せ!」というコンテストが行われた。「フォトショップだ」っていう意見が大多数で、あとは「シアトルのマイクロソフト本社の近くで撮った写真だ」という人が一握りいる程度だったので、出ていって「違うよ。あれはうちのそばで撮った本物の写真だよ」って言ってやったよ。
実は、あの「草原」の道はこの一帯でも一番危ない道なんだ。事故がやたらと多いの。スピード制限も緩いし、カーブだし、人は先を急ぐし、待機所もない。だから警察もあそこはよく見張ってるんだ(訳註:ソノマは酔っ払いも多いしね)。たぶんカリフォルニアでもあそこほど重点的に見張ってる場所ないと思うよ。
こないだ撮影場所に戻ってみたんだけど、一度通り過ぎて何kmか先でUターンして、Uターンして…やっと停められたってなぐらいで。
え、もしかしてこれから撮影に行くの? ははは。丘のむこうに太陽隠れちゃってるから、きっともっとドラマティックな写真が撮れるよ。
XPもさようならだね。寂しくなんかないさ、悲しくもない。でも、Windows 8でまた撮らせてねって電話番号渡したのに、マイクロソフトからはまだひと言も電話がかかってこないのは一体どうなっちゃってるのよ、とは思うけど(笑)。
***
私が走ってる丘でも時折ああいう眺めに遭遇するんだけど、カメラに撮った途端、あの匂い立つ生命力、躍動感が全部消えてしまう。とてもああは撮れない。いやすごいわほんと。
初めてこの写真がナパって知りました!おそらく世界で一番多くの人が目にしている写真かもしれないですね。
ReplyDeleteね。アンセル・アダムスのハーフドーム岸壁の写真『Monolith』に並ぶ知名度って言われてますけど、モノリスは知らない人の方が多い気が。。。因みにこの時のガールフレンドとは後に結婚されたようです。
ReplyDeleteThanks for ssharing this
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