September 1, 2011

隣のジョブズ:My Neighbor, Steve Jobs - @lisenstromberg

My Neighbor, Steve Jobs


BY Lisen Stromberg, An Angle of PrismWork


- in Japanese

隣のスティーブ・ジョブズが最近ニュースになっている。巷でも、後輩の芽が育つよう引退発表した話でもちきりだ。経済記者も一般記者もブロガーも誰も彼もがこぞって「史上最高のCEO」、その不世出の才能で我々の暮らしの本質そのものを変えた「boy wonder」と、言葉を尽くして讃えている。

全部事実だけどここパロアルトではスティーブ・ジョブズは雲の上のアイコンというだけじゃなく、同じ通りに住むおっさんでもある。

スティーブ(Mr.ジョブズと呼ぶ人も最近めっきり減った)に初めて会ったのは何年も前のこと。裏庭のプールを囲んでのパーティーのときだった。氏のDNAを吸い込める滅多にないチャンスだと思うと緊張でワケがわからなくなり、ほとんどひと言も話せなかった。自己紹介のとき自分の名前をどもってしまったので、きっと強烈な第一印象を残したはずだ。

愛息と一緒にプールで泳ぐ氏は、その辺にいる普通のおっさんと変わりなくて、子どもと遊んで楽しむ良いパパにしか見えなかった。


次に会ったのは子ども同士が同じ学校に入った時。氏はバック・トゥ・ザ・スクール・ナイト(夜の新学期説明会)の席に座って、教育の大切さを語る先生の話に神妙に耳を傾けていた(ちょっと待った…彼って卒業を待たずに大学中退したハイテクの神様のひとりじゃなかったっけ?)。周りに座ってる残りの我々は全員、同じ教室にスティーブ・ジョブズがいるのに全く何事もないかのように振る舞うので必死だった。

それほど前の話ではないが、近所を走っててスティーブを見かけたこともある。氏をそのまま若くしたバージョン ―ジーンズに黒Tシャツに銀ぶち眼鏡かけたミニ版の自分― と何やら夢中で話し込んでいる。もっと場所を空けてあげないとね…と慌てて避けようとして歩道の割れ目に足をつんのめらせてしまったので、きっと変な人に見えたはずだ。

実は名前を覚えられている(そう、私の名前!)と気づいたのは、それからほどなく、ハロウィーンの時だった。フランケンシュタインの格好で歩道に立っている氏の前を息子を連れて通りかかったら、ニッと笑って「Hi, Lisen」と言ったのだ。息子はあのスティーブ・ジョブズが私のこと知ってると知って母ちゃんスゲエ、村一番クールな母ちゃんだ、と思ったようだ。

クールネス・ポイント上げてくれてありがとう、スティーブ。

それからというもの近所でエグゼクティブ集めて会議開いてるの見かけても、躊躇わずにニッコリ笑って「Hi」と声をかけるようになった。スティーブはいつも挨拶を返し、天才だけど良き隣人でもあるところを見せた。

やがて様子が変わってきた。散歩の回数も減り、足取りもゆっくりになって、挨拶してもそんなにすぐにはニッコリ返せなくなってきた。今年スティーブが家の前の通りを奥さんと手をつないで歩いてるの見た時には私でも、何かが違うのが分かった。今ではこうして残りの世界中の知るところになったわけだけど。

ニューズウィークやウォール・ストリート・ジャーナルやCNETは相変わらずスティーブ・ジョブズ時代の影響についてウダウダ報じているが、私の胸を去来するのは執筆で使うMacBook Airでも通話で使うiPhoneでもない。引退と聞いて真っ先に浮かんだのは、氏が息子の高校卒業式に出た日のことだ。スティーブは立ち上がって頬を伝う涙を隠しもせず満面の誇らしげな笑顔で見送っていた。卒業証書を受け取って自分の輝ける未来に歩き出す息子を。それは、これに勝る遺産がないことを誰よりもよく知っているひとりの良き人間、良き父親の姿だった。


[My Neighbor, Steve Jobs]

2 comments:

Nankindama said...

こんばんは。
伝説的になったSteveの,2005年のStanfordでのスピーチの市村さんの翻訳をWebに掲載させていただいている N.Osato です。Steveの訃報を聞いて非常に悲しくなり,市村さんはどんな反応をしているだろうか,と検索してここに来ました。
訃報が流れたあと,市村翻訳のページのアクセス数が前週の5倍にも跳ね上がりました。影響の大きさを実感しています。
ともにSteveの冥福を祈りたいと思います。

satomi said...

大里教授! その昨日アクセスしたひとりです、ずっと置いてくださりありがとうございます。涙

この「隣のジョブズ」は卒業スピーチのAftermathとして読むととても胸に迫る話だなと思って、なんとか繋げないものかと思っておりました、まさかここに大迫教授にコメントいただくとは…

氏は本当にひとりひとり格別な思いを持ってる人ですよね。今はみんな自分の心の中にあるジョブズと静かに向かいあっていたい時だと思うので、ひっそりとご冥福をお祈りしたいと思います。合掌

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