アンドロイドは無料ではない:Andoid isn't Free @slate

Android isn't Free

By Farhad Manjoo, Slate Magazine -in Japanese


マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOは競合製品のこととなると完全に頭イカれたような予言をする天才なので、去年グーグルのAndroid戦略をこき下ろした時も業界オブザーバーの多くは(僕自身も)相手にしなかった。

当時Androidがマイクロソフトの昼飯を食い潰しアップルの足元をも脅かそうとしているのは傍目にも明らかだった(今年3月、AndroidのモバイルOS市場のシェアはアップルを抜いた)。マイクロソフトとグーグルはどちらも似た役割を担っている。携帯搭載のソフトウェアは作るが、携帯そのものは作らない。どちらも自社ソフトを世に出すには、端末製造メーカーと提携を組まないといけない。しかし、マイクロソフトが携帯メーカーにWindows Phone OSライセンス使用料の支払いを求めていたのに対し、グーグルはAndroidを無料で配っていた。いかにバルマーと言えどもどう無料に対抗すると? そんなの簡単だよ―氏はインタビューでたびたびこう説明していた。

「Androidに無料なものなんて何もない」






バルマー曰く、Androidは他社の特許をいくつか無断で使っているので、結果としてAndroid携帯を作るメーカーもマイクロソフトや他の特許所有者にライセンス使用料支払いを余儀なくされるというのだ。

ハイテク業界に特許侵害訴訟はつきものだ。 高度な新技術はどれも必ずと言っていいほど死ぬほど他人の特許に抵触している、と思って間違いない。ハイテクの巨大企業は自社特許の無償使用権を互いに認め合う「クロスライセンシング」で和解する場合も多い。ところが、グーグルはハイテク業界では新参だ。交換できる特許もそんなに多くない。

6月には通信電話関連特許をノーテルからまとめ買いしようとて、競合の同盟(Apple、Microsoft、RIM、Sony、EMC、Ericsson)に競り負けた。そこでAndroidを防衛するために是が非でも特許を買わなくてはならなくなり、月曜の「モトローラ元携帯部門を125億ドルで買収」という電撃発表と相成った。

モトローラ・モビリティは人気のAndroidスマートフォンを沢山作っているが、そこから入る儲けは微々たるものだ(最近の各四半期には純損失を計上している)。いわばハードウェアビジネスは買収についてきたオマケ。グーグルが本当に欲しかったのはモトローラが持つ1万7000件の特許の方だ。

言い方を換えると ―まさか自分の口からこんな言葉が出るとは夢にも思わなかったが― スティーブ・バルマーは正しかったのだ。Androidは無料ではない。安くさえない。Daring FireballブログのJohn Gruber が指摘しているように、グーグルがモトローラ買収に使う125億ドルはグーグル2年分の利益に迫る額だ。それだけのキャッシュ投じることができる会社なんてない。グーグルも本来できないはずだ。投じるからには、直接回収できる対投資効果(ROI)の目処が立ってないと、おかしい。

この買収がグーグルのAndroid運用アプローチのターニングポイントになると思う理由はまさにそこにある。現在このプラットフォームは「オープン」だが、カオスだ。—携帯メーカーはこのソフトウェアを無料で使い、なんでも好き放題できるので、素晴らしい携帯もあるが、安物の劣悪品も沢山ある。この買収成立の暁にはグーグルもハードウェア製造各社に今より大きな影響力行使を図るだろう。この買収を契機に毎年発売される新モデルのAndroid端末の数も減り、全般的に今より高い品質のものを今より高い価格で売り出すようになるかもしれない。

これはひと晩で起こる変化ではない。それどころか買収発表のカンファレンスコールでグーグル経営陣は大型買収でAndroidの何が変わるというものでもない、と言った。モトローラ部門はグーグル傘下で独立会社として運営される。これはAndroid OSを使う他の端末メーカーよりモトローラが優先的にAndroidにアクセスできるというような事態を避けるためのアレンジ。グーグルで今なお「オープンネス」の理想が健在であることを示す証だ。

だが、そんなプラン、とても支持できるものではない。なぜか? その理由を知るにはグーグルが今どうAndroidを運営しているか理解するのが早道だ。あなたがAndroid携帯を買っても、そのお金は検索会社には一銭も行かないのだ。しかも先述のように携帯メーカーはOSを無料で使っている。携帯の売上げから分け前をもらうことではなく、Android事業の主目的は新興スマートフォン市場で自社サイトの足場を保持することにある、とグーグルは言っている。要するにAndroidユーザーがGoogleのサービスを使う時間が多ければ多いほどGoogleの広告を見る機会も多くなる、という理屈である。

なんとも回りくどい儲け方だ。まるで石油会社が自動車メーカーに無料でエンジンを提供してガソリン需要を喚起する、みたいな回りくどさ。Androidoへの投資が小さいうちはまだこの戦略にも説得性があったが、このモトローラ買収でそれも変わってしまって、なんかいきなりエクソン・モービルがGM買収しました、みたいな話に飛躍してしまった。

今後グーグルは(モトローラ買収に投じる)125億ドルの穴は最低でもAndroidから取り返さないといけない(いくらかかったか知らないが、このOS開発にかかった資金とは別途に)。これは相当な難行に思える。

今年Piper JaffrayアナリストのGene Munster氏が行った推計によると、グーグルの懐にはAndroidユーザーひとりにつき年間たったの6ドルしか広告収入が入らないらしい。2012年までには年間10ドルまで伸びる可能性もあり、そうなると全ユーザー合わせて年間10億ドル。時間の経過とともにいくらこの数字が伸びたところでグーグルがモトローラ買収に投じた金を取り返すのは先の話だ。増してや黒字転換するまでには気の遠くなるような時間がかかるだろう。

その間、Androidのガソリン燃やして広告収入が入ってくるのをじっと手をこまねいて待つほど馬鹿なグーグルでもあるまい。モバイル端末事業からもっと直に金を引き出せる道があることに気づくはずだ。―自分で直接端末売って高いマージン(利幅)をあげる道だ。

無論これはアップルの儲け方である。いくつかの推計によると、なんでもアップルはiPhoneを1台売るたび370ドルの収入があるらしい。アップルのように物づくりが巧い会社は他にないし、端末からこれだけの収入が入るのにはそれなりの理由もあるのだが、アップルがモバイル事業成功の背景には主に2つの要因があり、モトローラ買収でグーグルにはその各々に布石を打つチャンスが巡ってくる。

第一の要因はハードウェアとソフトウェアが緊密に一体化した垂直統合型モデル。iPhoneのOSはハードウェア・コンポーネントがかなり具体的にあってそれ向けにデザインされているので、結果としてiPhoneはユーザーエクスペリエンスに1台1台ブレがない。つまり顧客はAppleブランド携帯を買い換えるたびに使い方を一からマスターしなくても良いし、アプリとハードのアドオンも(大体は)全端末互換で使える。

Appleのもうひとつの秘密兵器は近寄り難いところだ。毎年iPhoneは1モデルしか出さない。となると嫌でもマスコミ・信者の注目を引く。無料で宣伝してもらえる。

グーグルが今のAndroid戦略を続けても、そんな成功は真似できまい。安いAndroid端末はどれも似てなくて互換性もないため、乱立しているようなイメージをOSに与えてしまってる。しかし、Android携帯の中でもグーグルが関わるNexusラインは素晴らしく、グーグルもやればできるというのが分かる。モトローラ買収で、こうしたハイエンド携帯をメインストリーム市場に出すチャンスをグーグルは手にする。まあ、この先は穿った見方だが、グーグルは他のAndroidメーカーが平均以下の携帯売るのを阻む武器としてモトローラを利用してくるかもしれない。その場合、自社携帯部門(モトローラ)にAndroidのコードをおたくより早く使わせてしまうぞ、と脅しをかけるようなことも考えられそうだよね。

無論、Android端末メーカーに厳しい態度を取れば、逃げるメーカーも出てくる(Windowsに鞍替えしたり)。Android携帯の価格を上げれば、Androidの市場シェア成長のスピードも鈍るだろう。だがそれでも端末1台1台の販売から入るリアルマネー(50ドル、100ドル、もしかしたらそれ以上)の誘惑にグーグルが抵抗できるとは、とても思えない。モトローラの特許買取りに何十億ドルもはたいた後では、この種のキャッシュを拒絶するだけの余裕もグーグルの懐には残ってない気がする。


[Google's Motorola Mobility acquisition will make it more like Apple - Slate]


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