May 18, 2011

「フェイスブック 若き天才の野望」読了!:The Facebook Effect - David Kirkpatrick




1月出版「フェイスブック 若き天才の野望」をやっと読み終えた。あんな短い期限でこんな大著を訳された滑川海彦氏と高橋信夫氏に心より拍手!


訴訟・本・映画に対抗する公認本



本書(原題:The Facebook Effect)は、映画『ソーシャル・ネットワーク』の元となった2009年7月発売ベン・メズリック著「facebook」(右)に対抗するため、マーク・ザッカーバーグCEOがフォーチュンのデビッド・カークパトリックに書いてもらって2010年9月に出版した公認創業史だ。

メズリック本のネタ元エデュアルド・サヴェリンには一切取材していない。代わりにマーク・ザッカーバーグCEO本人と創設メンバー、投資家などインサイダーへの取材がベースとなっている。原書はどっちも同じぐらい売れている。両方読まないとわからないから。


21: Bringing Down the House - Movie Tie-In: The Inside Story of Six M.I.T. Students Who Took Vegas for Millionsベン・メズリックは前作「21: Bring Down the House」でも数に無茶苦茶強いMIT等の天才6人がカジノ荒らしをやらかした「MITブラックジャックチーム」という実在の事件を膨らませ、そちらも映画『21』になっている。

その前はバブル絶頂期の日本のトレーダー、月の石を盗んだ若者(実在)が主人公の本。

こうして並べるとメズリックが飛びつく素材の傾向が分かるだろう。







マイルドなバイアス


ハリウッド映画から抜け出たようなジューシーなノンフィクション風の本に対抗するんだから、いろいろ大変だ。

当然、ネガティブな話はとっとと終わる。

「ハーバード・コネクションのコードとビジネスプランを盗んだ」とザッカーバーグとフェイスブックを訴えたキャメロン&タイラー・ウィンクルヴォス兄弟(右)とディヴィヤ・ナレンドラはp.24で登場するが、「プログラミングをやってくれたら報酬を払うと提案した」とあるだけだ。

p.47で再登場する時には「ほかにも同兄弟とナレンドラのチームのように、ソーシャルネットワークづくりを試みている学生がいた」とあって、まるで他人ごと。

p.49では代償が高くついた「意見の食い違い」で終わってしまってる!  

p.106では「近親相姦指数」ぐらいしか思いつかない変態男として描かれている! いやぁ…双子がボートのオール放っぽり投げて裁判所戻ってきた理由がなんだか分かる気がするよ…

メズリック本も元を正せばハーバード学内誌「02138」
が裁判資料漁って書いたザッカーバーグ特集がネタ元

最初に30%の権利と引換えに投資したブラジルの貴公子エデュアルド・サベリンはp.30で登場する。

「自らCFOを名乗り」、「ザ・フェイスブックを正式に会社として設立」(p.49)し、広告取りやビジネス面の面倒を見ていたのだけど、会社がものすごい勢いで大きくなってパロアルトに全員缶詰になって働いてるときNYでひとり優雅にバイトして波に乗り遅れてギクシャクが始まり(p.82)、自分の知らないところでザッカーバーグたちが新会社を設立してしまったことに腹を立て銀行口座凍結の「テロ行為」に及び(p.85)、しょうがなくザッカーバーグは自分の学資を切り崩してサーバー維持費に充てる(p.86)。

…と読むとまるで被害者みたいだが、それまでは友だちのお金で会社をつくっていたんだよね…(´・ω・`)

やがてサヴェリンは最初の大型投資が入って株の持ち分が希薄化され社内の力を失ってしまう(p.181)。働かないで大金持ちになれたんだからラッキーという言い方もできるが、元々金持ちだったサヴェリンには、なんの慰めにもならない。

Aaron Greenspan (c) NY Times
FBより先にFB作ったアーロン・グリーンスパンも出てくるが、単に「ハウスシステムの開発者」とあるだけで(p.104)、フェイスブック立ち上げ4ヶ月前の2003年9月に発表した新機能「ザ・フェイスブック」のことはあんまりズバッと書かれていない。

「333ページにものぼる自己正当化のための自伝を自費出版する」(p.107)憐れな男で終わる。これは「Authoritas: One Student's Harvard Admissions」(p.112)のことだが、何が悲しくてグリーンスパンが「自己正当化」…。

NYタイムズによると、ハウスシステムには「誕生日告知、イベントカレンダ、RSVP、誰とどう知り合ったか、取ってる講義」などフェイスブックが後に採用した機能もいろいろあった。本書ではこういう被った機能は都合良く省かれ、商標侵害訴訟起こして和解した人、フェイスブックだけでなく双子のこともアイディア盗用だと非難している人という描き方なので、読み手は「似て非なるSNSを学内で作ったのに同じ名前だったことに拘る気の毒な人」という印象を受けてしまう。ザッカーバーグは双子の訴訟でこのグリーンスパンに証人頼んで断られているが、それも書かれていない。

本書で最も異彩を放つ脇役はショーン・パーカーだが、「1999年にショーン・ファニングという相棒とプログラムを書いたナップスター創立者」(p.58、61)というのは事実と違う。これは映画も間違ってるけど、ナップスターはショーン・ファニングがクリスマス休暇中ジョン・ファニング叔父に触発されて書いたプログラムで、1999年6月に叔父とふたりでスタートしたものだ。もうひとりのショーン、ショーン・パーカーは社員第1号で、ファニングみたいなTIMEの表紙にもなってないし、創業はおろかコードなんて1行も書いてないはず。

これには、12年経つとこうも話が変わるんかい!…と驚くと同時に、誰かからそう聞いて鵜呑みにして士気あがるザッカーバーグってそう言えばポスト・ナップスター世代なんだなあ、と時代の流れを感じてしまった。

ザッカーバーグのすごさ


というのが冒頭にくるので身構えてしまうが、エンジンがかかるのは本の中盤だ。インサイダーにしか知り得ない資金調達、買収交渉の裏話は本書の真骨頂。ものすごく面白い。起業する人は絶対読むべき。

ラスベガスのギャンブラーとは桁が何個か違うシリコンバレーの海千山千の投資家の間を、VC嫌いなショーン・パーカーがすいすい泳いでいく。これがもう冴えまくり。こういう得難い人を立ち上げの一番大事な局面で味方につけるところがザッカーバーグのすごさである。

ザッカーバーグは人に憧れ、それを隠しもしない。これが二番目のすごさ。ビル・ゲイツに憧れて会い、ワシントン・ポスト社主ジョン・グレアムに憧れて数日執務に侍って企業トップの仕事ぶりを見せてもらう。彼みたいな勢いのある若者に「かっけー」「すげー」と言われて嬉しくない大人なんかいない。うくい奴め、いっちょこのワシが知恵をつけてやろうかい、って普通思うよね。ワシントン・ポストが「いいね」で埋め尽くされているのはそんな次第だったのかーと今さらながら納得だ。

ザックのすごさの三番目は「一生かかってもこれ以上いいアイディアは思いつかないと思うんだ」とボケ役で買収交渉を押し切り、死んでも会社を人に譲らないこと。ボケのふりしたピラニアだ。

すごさの四番目は ―これは本書でも100回ぐらい出てくるけど― 金が目的でないところ。どうせゲイツとバフェットの呼びかけに答えて遺産は半分寄附する誓いを立てちゃってるし。結果的にこれで会社の評価は天井知らずの上昇を続けている。

すごさの五番目は、我がありそうで、ないところ。この本を読むまでは「小細工弄して我がものにする自己中な奴」と思っていたが、随分印象が変わった。多少ユートピアンに過ぎるけれど彼には一応追い求めている理想の世界観があるのだ。きっとそれが啓示のように見えてしまって、これはどんな手を使っても自分でかたちにしたい、こんなにクリアに見えるんだから、と思ってしまったんじゃあるまいか。ロード・オブ・ザ・リングスの指輪みたいに強く強く。

そういうことが起こるので、小林弘人氏が解説で書いてるように「シリコンバレーで聖者になるのは大変だ」。

世の中を変える現象は作り手の存在を超え、作り手はまるで現象の「通り道」になったかのような感覚を得て研ぎ澄まされていく。今ザッカーバーグほど通り道っぽいCEOはいない。こないだ辞めたフェイスブック急成長の立役者ジョー・ヒューイットが全くネガティブなこと言い残さないことに驚いたけど、ザッカーバーグがそんな風だからみんな後腐れないのかもね…。

ザッカーバーグの周りにはいろんな人がいろんなフェーズで集まり、力を貸し、去っていく。

愛すべき脇役陣


どの登場人物も味わい深いけど、なんと言ってもアクセルパートナーズのケビン・エフルシーが最高だ。ジム・ブライヤーの指令を受け、忠犬のようにフェイスブック周辺を嗅ぎ回り、粘りと執念で投資の突破口を開く。だんだんブライヤーもその気になって…。

いやあ、滑川氏があとがきで特記しているように、これは本当に本書のクライマックスだよね! 雷に打たれたみたいに、世界企業誕生の瞬間が眼下にパーッと開けて見える。まさにベンチャーキャピタリスト史に残る名台詞も出てくる。まあ、しょっちゅう言ってるんだろうけどさ。

執念と言えば、グーグルに指1本触れさせまいと陰で忙しく立ち回るマイクロソフト(どっかで聞いたような話だ)ももうひとつの読みどころ。必死なはずなのにバルマーが極秘の会合にボディガードをぞろぞろ従えて登場したり(p.351)、長丁場の会議の途中でハウスがガンガン鳴って急にみんな体をゆすり出したり(p.356)、なんか笑える。

マイクロソフトとグーグルの最終戦争で雌雄を決するのはやっぱフェイスブックなのかな。必読の一冊。

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