「ポスト出版時代の非読書人の文章学」講義概要:Writing for Nonreaders in the Postprint Era - McSWEENEY'S

原文「INTERNET-AGE WRITING SYLLABUS AND COURSE OVERVIEW」
BY ROBERT LANHAM, McSWEENEY'S

-in Japanese

「インターネット世代の文章学 シラバス・講義概要」



ENG 371WR:
ポスト出版時代の非読書人の文章学
月-水-金: 11:00 a.m.–12:15 p.m.
講師: Robert Lanham



コース概要

出版が発煙信号、くさび形文字、大声の仲間入りをするにつれ文学界にも新時代が台頭しつつある。作家は紙裁断・リーディング・原稿売買にかかる過剰な言葉の利用を恐れる必要はない。ポスト出版時代の非読書人は、パルプ繊維での再販を目指さない短い散文の創作に専念している。

インスタントメッセージ、Twitter、Facebookの更新。このような21世紀文学のジャンルは失われた世代の定義を塗り替え、長ったらしい記事や短編で苦悶するぐらいならiPhoneで『Lost』見る方がマシと感じるミニマリストたちの新“ロスト・ジェネレーション”を形成した。

本講で学生は、先見性のかけらもないつぶやき(tweet)、自分中心主義を轟かせるFacebook更新、文学の真髄が揺らめくブログ記事の実現に必要な術を習得する。いずれの分野も文章を最後まで完結しなくてはならないという制限はない。w00t! w00t! * 講義全体を通して学生には名詞、動詞、副詞、形容詞、接続詞、動名詞その他、文学が陥る落とし穴の過剰な使用は控え、ヘミングウェイおよびガートルード・スタインのミニマリズム派の文体をさらに削ぎ落とす方向に指導の重点を置く。


履修条件

履修に当たって学生は以下のうち最低2コースの履修を完了しているものとする。
国ENG: 232WR— 上級Tweeting: ドロールをキメる要素
文LIT: 223— 21世紀初期文学:140字以下
国ENG: 102— 人が会話を楽しんでいるとき携帯端末をぼんやり見る
国ENG: 301— 上級ブログ&書籍スキミング(斜め読み)術
国ENG: 231WR— Facebookウォールにおける頭韻法と母音韻
文LIT: 202— Lolcats*の文学的効用
文LIT: 209— インターネット世代の超現実的ナルシシズムと自己陶酔


必須講読文献

Huffington Post著『Complete Guide to Blogging』オンライン目次ほか文学作品は、スキミング(斜め読み)で本の徹底分析をまとめる際の見本に使う。さらにペレズ・ヒルトン(Perez Hilton)のTwitterフィード(下)。


ハリウッドの鼻つまみ者ペレズ・ヒルトン


SECTION 1:
講義&ディスカッション
文学はウォールにあり:
なぜ出版と読書は象形文字と同じ運命を辿るのか

最初の4週間は出版産業の現状を学び、何故(読むとこないセレブの高級グラビア誌は別として) 印刷媒体がえーとなんだ…つまんなくて、その上さらに、めちゃ退屈なのか、その理由に迫る。


Week 1:
読書はstoopid

この根本原理は今の若者には説明不要だが、ずっと昔からそうだったわけではない。学生は一昔前の世代が何故わざわざ重い紙を綴じた塊を持ち歩いていたのか、何故TV視聴やギターヒーローのプレイより読書を選んだか、理由を検証する。


Week 2:
原稿の印刷は環境に悪い

BuzzMachine創設者Jeff Jarvisがいみじくも言ったように「紙は原稿が死ににいく場所」である。学生はその理由を分析する。紙はまた、熱帯雨林の死にゆく場所でもある。これは言うまでもなくミドリガエルのHyla rhodopeplaにとって良くない。よって、古い世代が名著や新聞の日曜版を抱えて暖炉の脇で丸くなって読書に耽る昔を懐古する中、本講受講生には『The Lorax』(アンチ木材産業のTVアニメ。絵本ではない)の精神を忘れるな、と推奨する。


Week 3:
名著・新聞を抱えて丸くなることは危険


受講生は書籍・新聞を抱えて暖炉の脇で丸くなる行為に潜む危険性を学ぶ。残り火が不意に飛び出し、紙に燃え移る恐れもある。しかも丸くなる姿勢は人間の腰に悪い。とりわけ書籍・雑誌・新聞を読む人のほとんどは高齢者である。よって既に腰の疾患を抱えている可能性も高い。

Week 4:
Kindleにまつわる疑問

学生は「アマゾンのワイヤレス読み取り端末は携帯ガジェットのセグウェイなのか?」、「書籍のテキストを表示するより、もっと小さなヘッドフォン付きにしてMP3が再生できるようにすべきでは?」などの問題を話し合う。

SECTION 2:
作文実習
I Can Haz Writin Skillz?


本講のこのセクションで学生は、つぶやき、ブログ、短文ライティングの技術を実地で学ぶ。


Week 5:
文法・テクニック


時々刻々と変わるインターネットのスラング、チャット語。その全容を把握することは、効果的なつぶやき、IM、テキストメッセージを書く上で欠かせない。学生はエモティコン活用でパワフルな対話を創出し、ドラマティックな皮肉を構築する練習を行う。さらに複雑な表現をIMの文章に優雅に統合し、「LOL」(“laughing out loud”/大笑い)および「meh」(肩をすくめる行為の書き言葉に相当)のような使い古された表現をより高度な「BOSMKL」(“bending over smacking my knee laughing”/腰をかがめ膝をバシバシ打って笑う)および「HFACTDEWARIUCSMNUWKIASLAMB」(“holy flipping animal crackers, that doesn't even warrant a response; if you could see me now, you would know that I am shrugging like a mofu, biotch”)などの表現に置き換える。学生は時制、構文、文法の制限をすべて取っ払い、自らの技能を磨くよう推奨される。

Week 6:
140字以下


学生は底の浅いウィットでつぶやきを蘇生する技術を習得する。皮肉、矛盾、ドラマティックな饒舌を散りばめたFacebookのステータス更新法も学ぶ。例えば「ジョンはバターをのせたイングリッシュマフィンを味わっている」とつぶやきを書く場合、隅から隅までバターが沁みたマフィンの画像リンクを追加してみてはどうだろう? あるいはやや大げさにマフィンの上にベーコンも乗ってる、と書いてみる。実際は乗ってなんかいない。作家はこれをやっても「詩的許容」なのだ! 学生には正直に自分の弱みを見せるつぶやきを書くよう薦める。例えば「リディアは下着姿でパーク通り401番地のアパートの2号室で寛いでいる。上司に叔父が死んだと言って1日ズル休みしたことに一抹の罪を感じながら」。作家たるもの、いくら曝け出しても曝け出し過ぎることはないのである。

Week 7:
ブログ

ポスト出版時代の文章学の講義を標榜するからには、ブログ文章学の包括的概観は欠かせない。学生は、比ゆ表現、伏線、象徴主義、パパラッチが押さえたセレブの胸ポロンのバイラル写真など、ブログをさらに生き生きとしたものにする技法の基礎活用術を学ぶ。さらに「Check this out」、「BOSMKL」(上述)、「Doesn't this CRAZY cat look like she's giving that ferret a high-five?」などキャッチーな見出しをつけてYouTubeにバイラル動画を投稿する演習も行うほか、学生は時間セーブのトリック、例えば単なるニュース記事をコピペして800ワードのブログ記事を30秒で作る…などの技術も学ぶ。さらに一人称語りの文体の演習では自らの人生、勉強、性遍歴(写真入り)についてブログを書き、ゴシップサイトからリンクを張ってもらうか、将来の就職先の目に留まるか、あるいはその両方が叶うよう目指す。

SECTION 3:
講義&ディスカッション

業界事情~出版化への道

受講生は業界の内部事情―出版化、報酬の受け取り、エージェントや編集者との駆け引き―を学び、以上挙げたすべてがポスト出版のポスト読書時代に通用しないのは何故か、理由を検証する。


Week 8:
新たな法則


受講生は出版業界を分析し、過年の詩人以上にイノベーティブになる方法を学ぶ。学生は例えば、トマス・ピンチョンについて論考が求められる。あの超大作『重力の虹』がたった2段落で、肌もあらわな女子大生の写真の下にブログ記事として公開されたら今頃どれだけの成功を収めていただろうか? グーグル検索窓を追加したら? あるいはまたスーザン・ソンタグがFacebookで友だち1000万人作ってから『The Volcano Lover(邦題:火山に恋して)』の短いバージョンを、「スーザン、火山は原始的熱情のメタファーとして素晴らしいと思うの。髪ごっそり白くなっちゃったし―d'oh!*」 というステータス更新の形で公開していたら、どうだったのか? 等々。

出席数: 必要ない。ただし受講生はIMにサインインするか携帯をオンにするかしなくてはならない。
評価: 受講生間の優劣で評定するRBBEAW* システムに基づき評価する。

A+ = 100–90
A = 89–80
A- = 79–70
A-- = 69–60
A--- = 59–50
A---- = 49–0

[講師] Robert Lanham。ビブログ・シリーズ「Writer's Block: Embrace It—Stop Wasting Time and Live!
」のスター。

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* Raised by Boomer, Everyone's a Winnerの略(みんなが勝ち組というベビーブーマー世代に育てられた)
*Lolcats: 猫の写真にキャプションを入れて遊ぶ癒し行為。猫語自動翻訳機もある。
* w00t!: 歓喜、勝利を表すネット語。'80年代中期ハッカーが成果報告で使った隠語から派生した、など起源をめぐっては諸説ある。
* d'oh!: アニメ『ザ・シンプソンズ』生まれの新語。「バカだな…自分」という自嘲のニュアンスも。

McSWEENEY'S [via Rough Type]
Translated by satomi ichimura

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